トポロジーとは連続変形で変わらない図形の性質を調べる数学の一分野です。トポロジー的な問題の起源はオイラーによる「ケーニヒスベルクの橋」とされています。これは、ケーニヒスベルクという街の川にかかる7つの橋をちょうど一度ずつ渡る散歩ができるかという問題であり、橋と陸地の「つながり方」のみが重要です。橋の位置、角度、長さなどが多少ずれてもこの問題の解答には影響がありません。
オイラー以降、ポアンカレにより基本群やホモロジー群といった図形のある種の「穴」を捉えるための道具が開発され、トポロジーは大きく発展してきました。トポロジーは純粋数学的側面も強い分野ですが、一方で非常に広い汎用性もあり、使い方次第では私たちの日常生活の中の素朴な疑問に答えるための強力なツールとなってくれます。例えば、ボルスク-ウラムの定理は、地球上で「どんな時刻においても、同じ気温、同じ気圧であるような対蹠点が存在する」ことを数学的に保証してくれます。対蹠点とは互いに地球の真反対となる地点の組のことです(北極と南極や、日本とブラジルなど)。この定理の証明では基本群が用いられます。他にも、ハム・サンドイッチ定理というものがあり、これは「パンとハムとバターを3層に積み重ねたサンドイッチをナイフにより1切りで正確に各層を等分できる」ことを主張するものです。この定理もやはり基本群を用いて証明されます。基本群はこれらの定理を示すために開発されたわけではなく、純粋数学的な興味から生まれた概念と思われますが、それが身近な現象における疑問を解決してくれるのは興味深いことです。
この授業では、基本群の基礎的事項を学び、応用として、例えば上述のボルスク-ウラムの定理のような物理的解釈についての説明を行います。最終的には、具体的な空間の基本群を求められるようになることをこの授業の目的とします。
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